In Cake ♪

穏やかな日の光が振り注ぐ春の午後。
僕は、大学の廊下を食堂に向かって歩いている。
講義が終わって、サークル活動にいそしむ人達の間を縫って、少し駆け足で僕は歩いていた。
授業ノートを貸してほしいと頼んできた同級生が、食堂で待っている。
テスト前になると、この手の頼みごとが多いんだよなぁ…。

廊下はガラス張りになっていて、ガラスの向こうには中庭が見えている。
サークル活動だろうか? 一眼レフを構えた生徒が何人か写真を撮っているのが見えた。
この大学は、ガラス張りになっている場所がとても多い。
まだ建物を建て直したばかりで、立て直す際についたデザイナーのセンスが良かったんだろう。
そんなに敷地は広くないはずなのに、ガラス張りにするだけで随分と開放感がある。
この洗練された建物のデザインは、僕がこの大学を気に入っている理由の一つだ。


「…おーい進藤? 起きろよ」
食堂に入ると、彼は入り口から一番近い席で、机に突っ伏して居眠りしていた。
僕がノートで彼の背中をペン、とはたくと、進藤は目をこすりながらのろのろと体を起こす。
まだ頭がはっきりとしないのか、目をぎゅっと閉じたり「あー・・」と声を出してみたりしていた。
「ほら、ノート」
ノートを差し出すと、ようやく彼はそれを受け取って、僕の顔を見た。
「サンキュー、いつも悪いな」
「いーよ、今日は見返りもあるんだし?」
僕がそういって笑うと、進藤は「あ」と思い出したように席を立った。
「買ってくるわ」
「ごちそうさま♪」
僕に授業ノートを借りに来る同級生は沢山いるけれど、中でも進藤は常連だ。
今回は見返りに、ケーキをおごってくれるという約束だった。
僕は甘いものに目がない。
中でも、生クリームの沢山のったショートケーキなんかは格別。
大学の食堂の味なんてたいした事はないという話をよく聞くけど、
うちの大学の食堂は、デザートのケーキだけは本当に美味しい。
実は休みの日になると、雑誌でチェックしたケーキ屋さんを巡る事もある僕がそう思うんだから、きっと間違いないはず。
学食のメニューの中でケーキだけ、パティシエが入っているんじゃないかと思うくらいだ。
もちろんそんなはずはないけれど。

「お待たせいたしました!」
進藤が、プロのサービスマンの真似をして、僕の前にケーキを差し出した。
僕は無意識にニコニコしてしまう。
「どうもありがとう、遠慮なく頂くよ」
僕がえらそうに”常連客”の真似事をすると、進藤もニカッと歯を見せて笑った。


―――――あ。
ポケットの中で、携帯がその身を振るわせた。
授業中に鳴ったりしないように、マナーモードにする癖が付いたのは、彼女と付き合いはじめてからだ。
僕は、フォークを口に突っ込んだまま、左手で携帯を取り出す。
彼女からだ。

「なに、なんか楽しそうじゃん。彼女?」
進藤がからかうような口調でたずねた。
「…うん、彼女。最近付き合いはじめたんだ」
「まじで!! うわー先越された!」
僕は得意げに笑う。

美味しいケーキと彼女からのメール、なんて、最高の取り合わせじゃないか!
そういえば、彼女は甘いものは好きなのかな。
このケーキを食べたら、なんて言うかな。
いつか、この学食のケーキも食べさせてあげたい。


僕は、ケーキを写真に撮って送る事にして、携帯を構えた。


『学食のケーキ。いつか君にも、食べさせてあげたいな』




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